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賃貸経営の不安

家賃下落や建物の老朽化が
心配なのですが‥

家賃下落の要因①|
経済状況の影響

 賃料下落可能性の要因は、大きく分けて3つのタイプがあります。

 1つめの要因は、マクロ経済の変化です。
 民間家賃(公的な賃貸物件以外)も消費者物価指数が算出の要素の1つです。つまり、物価に連動して家賃も動くということです。景気が悪化して物価下落(=デフレ)基調の時には家賃も下落圧力がかかります。逆に、経済状況がよく物価上昇期には上昇圧力がかかります。

 しかし、賃料には「遅効性」や「粘着性」という性質があり、好景気になると直ちに家賃上昇又は下落ということにはなりません。

 賃貸住宅の契約は、2年、3年ごと更新というのが一般的ですので、賃料の上昇あるいは下落基調は2~3年以上の好景気・不景気が続くとみられる現象です。ちょっとした単年の景気変化では、あまり大きな変化はないということです。

 例えば、2022年の年初から物価上昇は顕著となりましたが、家賃上昇がデータ上で見られるようになったのは2022年後半からでした。また、家賃の上昇は、一般的に都市部で始まり、その後地方へと波及していくことが多いようです。

家賃下落の要因②|
空室率の影響

 2つめの要因は、空室率の増加です。
 空室が増え、また空室期間が長くなると、オーナーとしては、「賃料ゼロが続くよりは、家賃を下げてでも住んでもらいたい」という思いが芽生えます。

 たとえサブリース契約が結ばれている時にでも、空室が増え、それが長引くと、更新時にサブリース契約賃料の下方修正が行われる可能性が高まります。また、周辺のどこか1つの部屋が家賃を下げて入居者募集を行うと、それに呼応するように周辺家賃相場が下がることもあります。

 大都市部など賃貸マンションが数多く存在する場所では、入退去の期間の関係から、どこかの部屋が空いていることが多いものです。入居者募集をしている部屋数よりも入居希望者数が少ないと、需給バランスが崩れて家賃下落の可能性が高まります。逆の場合は家賃上昇可能性が高まります。

 また、新築時に周辺相場よりもかなり高めの設定をしていると、入居希望者が家賃の高さから敬遠してしまい、入居者あっせん会社(客付け不動産会社)から「空室が目立つ不人気物件」という印象をもたれてしまうことがあります。そうなれば、その後もスムーズな入居者募集が行えない可能性もありますから、周辺相場をふまえた適切な賃料設定が求められます。

家賃下落の要因③|
経年の影響

 家賃下落の3つめの要因は、建物の経年によるものです。

 賃貸住宅経営を始める際には、たいていの場合30~35年程度の収益シミュレーションが担当者から提示されます。これを見ながら、「どれくらいの収益があるか?どれくらいのリスクがあるか?」などを検討し、最終的な賃貸住宅経営スタートの判断を行います。

 このシミュレーションの中で、経年に伴う賃料下落をどのくらい盛り込むか、は難しい判断です。

 都心などでは、築40年を超える物件でも、1970~80年台に比べるとはるかに高い賃料が取れていますから、「経年に伴う賃料下落はほとんど関係ない」という状況です。しかし、その他のエリアでは、築年に伴う賃料下落はあります。そのため、収益シミュレーション上では、しっかりとその下落分を見込んでおかなければなりません。賃料の想定以上の下落は、収益シミュレーションに大きな差を生みますので、注意が必要です。

賃貸住宅の修繕には
原状回復と大規模修繕があります

 次に建物の老朽化対策についてです。

 賃貸住宅経営は、途中で物件を手ばなさないとすると35年以上の長期にわたります。その間には、小さなものから大規模な工事まで、必ず修繕が必要になります。修繕関連としては、入退去時に都度発生する「原状回復」と概ね15年~20年ごとに発生する「大規模修繕」「設備交換」があります。

 「原状回復」は、入居者からの預かり金でまかなえる部分もありますが、経年劣化に伴う費用は貸主負担ですので、原状回復工事費用の一部はオーナー様の負担となります。主に、室内の簡単なリフォーム、清掃など、住む方が快適に住むために行うのが、「原状回復」です。代表的な例を挙げると、クロス張り替え、フロア張り替え、障子・襖・網戸張り替え、ハウスクリーニングなどです(賃貸借契約の内容により、入居者とオーナーの方のどちらが原状回復費を負担するかが異なります)。

 「大規模修繕」は、主に躯体にかかわる修繕や建物外部、外壁や屋根に関する修繕です。塗装工事、外壁補修工事、屋上・バルコニーなどの防水工事などがこれにあたります。工事費用がかなりかかるものもあります。

 「設備交換」は、水まわり設備や給湯器、エアコン等の取り換えです。耐久年数は概ね15~20年くらいの物が多いようですが、早ければ10年超で交換が必要な場合もあります。

 築年数が10年を超えたあたりから、色々な個所の修繕、交換が必要になりはじめ、15年~20年頃に交換はピークを迎えます。また、外部の大規模修繕は、10年目を過ぎたころから出はじめます。この時期には、結構な費用がかかることを覚悟しなければなりません。

 しかし、セキスイハイムなど一部ハウスメーカーが採用するような高耐久タイルを貼ったパネル系の外装部材は、汚れが目立ちにくく、劣化しにくいので、この修繕時期(周期)を遅らせることができます。例えば10年に1度の修繕が必要な場合ですと、30年間では少なくとも2回の工事が必要ですので、このように修繕周期を遅らせることで、長期間の収益率は格段に良くなります。

修繕費用を収支計画に
盛り込んでおきましょう

 このように原状回復、修繕・交換、大規模修繕は必ず必要です。しかし、想定外の出費もありますので、それを織り込んでおくことも重要です。

 賃貸住宅経営を始める前に作成する収益計画にこれらのメンテナンス関連費用を見込んでおくことは、必須となります。もし、見込んだ費用を使わければ、その分は利益の上乗せになりますが、もし見込んでいなかった費用が発生した場合は「想定外の出費」となります。この「想定外の出費」こそが、リスクとなります。

 収益計画を立てるときには、支出を多少多めに見込んでおくことが重要です。そのうえで、収益が自らが求める数字になっているかどうかで、賃貸住宅経営を始めるかを判断すべきです。

監修:

(社)住宅・不動産総合研究所 理事長

吉崎 誠二(不動産エコノミスト)

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者などを経て、現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。

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