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積水化学工業株式会社 住宅カンパニー(プレジデント:関口俊一)の調査研究機関である株式会社住環境研究所(所長:小池裕人、千代田区神田須田町 1‐1)は2016年8月、所内に「生涯健康脳住宅研究所」(所長:嘉規智織)を開設。同研究所では昨年5月より、高齢者の生活の場である自宅や介護現場においてコミュニケーションロボットの実証実験を開始しました。この度、個人宅向けの実証実験において、同ロボットが高齢者に受容され、会話促進による生活改善などの一定の成果が得られましたので、ご報告いたします。
独居の高齢世帯において、コミュニケーションロボットとの会話により、睡眠状況の改善や生活上の改善の効果が見られた方がいた。
1.ロボットの利用が多い人は日中の活動量比率が高く、睡眠の主観的深さが改善
コミュニケーションロボット利用の多い(ロボットの被験者に対する顔認識率が高い)人は、日中の活動量比率(日中の活動量/夜間の活動量の比率)が高く、睡眠の主観的深さの改善が見られました。実験後の生活変化に対する被験者の自由回答には「以前は昼間、TVを見ているとうたた寝してしまったが、ロボットが来てからは1時間に1回、相手をしているので寝ることがない。そのため、夜の寝つきが良くなった」などのコメントがみられた。ここから、昼間ロボットとの会話により生活リズムが整うと考えられる。
2.コミュニケーションロボットに求められるもの
コミュニケーションロボットの外見や会話の愛らしさは、高齢者に対し存在感や親近感を引き起こし、ロボットの受容性を高める。(思わず相手をしてしまう。1人ではほっとけないなど)要望された追加の機能としては、見守り、生活状況に合わせた挨拶、家電制御や防犯機能などがあった。
実証実験では、ヴイストン株式会社の「Sota(ソータ)®」を利用し、株式会社NTTデータ(社長:岩本敏男、東京都江東区豊洲 3-3-3)が開発した高齢者向けコミュニケーションロボットを、当社のお客様邸や実際の暮らし・介護の場に導入。高齢者の会話促進による生活の質全般の向上や睡眠の主観的深さの改善効果を確認できました。
65歳以上の一人暮らし高齢者は、男女ともに増加傾向にあります。1980(昭和55)年には、男性が約19万人、女性が約69万人、高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%でしたが、2010(平成22)年には、男性が約139万人、女性が約341万人、高齢者人口に占める割合は男性11.1%、女性20.3%です。※1
また、高齢者の会話(電話やEメールなども含む)の頻度は、単身世帯を除く世帯の場合「毎日」が9割以上です。しかし、単身世帯で毎日人と会話しているのは75.7%程度であり、「2日~3日に1回」が14.6%となっています。(下図1)※2
健康状況の「良い」・「良くない」別での会話頻度は、健康状況が「良い」で、毎日会話は92.6%、「良くない」で87.8%となっています。さらに「良くない」では「2日~3日に1回」6.2%、「良いで」は4.4%。「良くない」で「1週間に1回未満・ほとんど話さない」3.8%、「良い」では1.6%となっています。(下図2)※2
このように健康が良くない人で会話の頻度が少ないことがいえます。独り暮らし高齢者が増加する中で、会話頻度が減少することは、生活上の質や健康を低下させる要因となることがわかります。
一方で、近年、IoTやロボット技術(AIも含む)が進歩し、生活支援やサービス充実の手法の一つとして、ロボット技術が着目されています。それには介護現場におけるスタッフの負担軽減に加え、高齢者や身体障害者の身体の機能維持や改善の効果が期待されています。生涯健康脳住宅研究所では生涯健康脳の視点から会話の機能や意欲の促進が高齢者の生きがいつくりに寄与するという仮説を立て、今回の実証実験においてコミュニケーションロボットの有用性に関する検証を行い、今回の実験では日中、独りで過ごす高齢者を対象に実験を実施したものです。
※1 内閣府の「平成28年版高齢者社会白書」
※2 内閣府の「平成23年度高齢者の経済生活に関する意識調査結果」
・実 験 主 幹 | : 生涯健康脳住宅研究所 (積水化学住宅カンパニーの子会社住環境研究所内・組織) |
・実 験 目 的 | : 「話食動眠」の会話を促進するコミュニケーションの内容の検証、会話の促進 が生活状況の向上に効果があるかを検証する、および生活上の効果として 話食動眠に基づく、食欲、運動(活動量)、睡眠、意欲を評価する |
・検 証 事 項 | : 1)高齢者の会話促進とその増加の有無 2)生活状況(食欲、運動(活動量)、睡眠、意欲)の改善・促進の有無 3)コミュニケーションロボットの受容性 |
・実験の特徴 | : おおむね自立高齢者を対象とし個宅における会話の促進と効果の検証 |
・実 験 期 間 | : 2017年5~9月 |
・実 験 手 法 | : 実験前・実験期間・実験後の3区間で評価 : 各1週間、生活状況を自記式アンケートにて記述し、活動量を計測した |
・対 象 者 | : 75才以上高齢者7名 年齢:70代2名、80代4名、100才1名平均84.9才 最年少77才、最高齢100才 住居:戸建5名、集合住宅2名 家族:独居5名、子世帯同居(但し日中は概ね1人で過ごす)2名 |
・ロボット仕様 | : 起動を朝7:00~夜8:00までとし、1時間に1回会話の呼びかけを行う : 1回の会話時間は約12分(1問1答で20回) |
・協 業 先 | : 積水化学工業 住宅カンパニー(モニター邸の提供-サ付高住、戸建) : NTTデータ(コミュニケーションロボットSota提供、会話内容の解析) : 大学関連/江戸川大学睡眠研究所(実験手法指導、各種解析・分析) |
・そ の 他 | : 実験は江戸川大学研究推進小委員会にて研究倫理に関する審査を受け、承認を 得て実施した |
『生涯健康脳』は、東北大学加齢医学研究所 瀧靖之教授が提唱している概念で、脳の活性化や機能維持のための重要な4つの項目「コミュニケーション」「食事(調理)」「運動」「睡眠」から健康な生活をより長期化させるという考え方です。
当社では「話食動眠(わしょくどうみん)」と呼称しています。
1.ロボットの利用頻度
ロボットの利用状況により、以下の3タイプが存在していました。
2.活動量と日中のメリハリの変化
ロボットとの会話における効果として日中の活動量に着目しました。日中の活動量は、対象者ごとに日中の活動時間、夜間の活動時間が違うなど、個人差がありバラつきが生じました。そのため、日中の活動量/夜間の活動量の比率を出し、日中の活動量比率と捉え比較しました。日中の活動量比率が高いほど、昼間活動し夜の中途覚醒や体動が少ないといえます。日中の活動量比率(日中の活動量/夜間の活動量の比率)について全体をみると(図3)、実験中は8.7%と実験前8.3%に比べ増加しています。
個々のケース(図4)で見ると、05、06で実験中の数値が小さくなっており、日中の活動量比率が低くなっていました。これらをロボットの利用度(顔認識回数)で見ると(図5)、顔認識回数が少なく、ロボットを余り利用していないことがわかります。少ないN数ですが、ロボットとの会話が多いと生活上にプラスの変化があると考えられます。自由回答からは、行動促進で会話変化や会話呼びかけ、存在感などから会話を実施していることが見受けられます。
3.睡眠の主観的深さの変化
睡眠の主観的な深さ変化を分散分析により解析を行いました。結果は、ロボットの活用状況による二群の間の睡眠の深さの差についてはp=0.052 でした。(有意差p<0.05)その為、統計的な有意差は、ありそうということを示しています。実験期間でロボットを活用している群は、睡眠がもともと浅い傾向にあり睡眠の主観的深さは、改善の傾向が見られると考えます。ロボットを活用していない群の睡眠の主観的深さの低下は、ロボットに馴染めない緊張感などが影響しているのではないかと考えられます。(図6)
4.ロボットの受容性について
ロボットの印象について(図7)は、「ありがとうを言うので感じがよい」、「顔が可愛い」、「いじらしい」、「考えるしぐさが可愛い」など、ポジティブな内容でポイントが高くなりました。
ロボットに追加して欲しい機能(表2)としては、見守り、生活状況に合わせた挨拶、家電製品と連動した制御、戸締りや防犯などがあがりました。
コミュニケーションロボットができる事・できない事
今回、一人暮らしの高齢者の自宅にコミュニケーションロボットを届け、ロボットとのコミュニケーションによって生活の改善が生じるかどうかを、生活リズムや睡眠という観点から検証することをお手伝いいたしました。現在のコミュニケーションロボットには、人間と比べればまだまだ足りない部分があります。しかしながら、そのようなコミュニケーションでも、一人暮らしの高齢者には意義のある事が今回の検証実験で少しずつですが見えてきました。
今回の検証実験で分かったことの一つは、もともと活発で夜はちゃんと眠り、日中は活動的な高齢者には、あまり意味がなく、少し元気がなくなって、生活リズムのメリハリがなくなっている一人暮らしの高齢者には、生活のメリハリを改善し、夜の眠りを改善する可能性が垣間見えるということです。現在のコミュニケーションロボットはすべての高齢者にとって、理想的なパートナーとは言えないかもしれません。しかしながら、一部の高齢者は、ロボットとのコミュニケーションによって、生活全体の質が向上しているようです。一部の高齢者と言いましたが、「日中の活動量がもともと少なく、そして、睡眠に関しても少々不満を持ち、昼間にうまく時間を使う事の出来ていない」一人暮らしの高齢者は少なくはないでしょう。日本の超高齢社会において、ロボットが果たすパートナーとしての役割は、ロボットの性能向上と共に更に大きくなっていくものと考えます。
江戸川大学 社会学部人間心理学科
江戸川大学睡眠研究所長
福田一彦
生涯健康脳住宅に求められること
生涯健康脳住宅とは、脳を健康にする暮らしを実現する住まいです。当研究所では、脳を活性化させる暮らし~話食動眠(会話、食事、運動、睡眠)を提唱しています。脳の健康を保つために会話の継続は大変重要です。
今回の実験から、一人暮らしの高齢層においてロボットと会話する事で生活が改善したケースが、数は少ないですが確認されました。人と会話をする、会話をする場や機会をもつ、あるいは、会話をする存在(例えば、ロボットなど)が必要であることが分かりました。
今後は、住まいが日常生活の状況をセンシングし、会話を促進する機能を持つことが重要であると考えています。
生涯健康脳住宅研究所 所長
嘉規 智織